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針治療による疼痛抑制のメカニズム
針治療は数千年にわたり世界中で疼痛管理に利用されてきた伝統的な治療法です。そのメカニズムは複雑であり神経系・内分泌系・免疫系等、複数の生体システムが関与しています。現代科学の研究によりその作用機序が徐々に解明されつつあり主に以下のメカニズムが提唱されています。
1.ゲートコントロール説
この理論は針治療による疼痛抑制の最も基本的なメカニズムの一つです。脊髄後角には痛みの信号を脳に伝えるゲートのような働きをする部分があるとされています。針を刺入し、その部位を刺激すると太い神経線維(Aβ線維)が活性化されます。この刺激は痛みの信号を伝える細い神経線維(C線維やAδ線維)よりも速く脊髄に到達し、ゲートを閉じる事で痛みの信号が脳へ伝わるのを抑制します。これにより痛みの感覚が軽減されます。
2.内因性オピオイド系の活性化
針治療は体内で生成されるモルヒネ様の物質である内因性オピオイド(エンドルフィン、エンケファリン、ダイノルフィン等)の放出を促進します。これらの物質は脳内の特定の受容体(オピオイド受容体)に結合し、痛みの感覚を強力に抑制します。特に針治療にて視床下部や下垂体が刺激されるとβ-エンドルフィンが放出され、全身の疼痛閾値を上昇させる事が知られています。
3.神経伝達物質の調節
針治療はセロトニン、ノルアドレナリン、GABA(γ-アミノ酪酸)等、痛みの調節に関わる様々な神経伝達物質のレベルを変化させます。セロトニンとノルアドレナリンは脳と脊髄の下降性疼痛抑制系を活性化し、痛みの伝達を抑制します。GABAは中枢神経系における主要な抑制性神経伝達物質であり神経活動を鎮静化する事で痛みの知覚を低下させます。
4.局所的な血流改善と炎症抑制
針を刺入した部位では血管拡張が起こり、血流が増加します。これにより組織への酸素や栄養の供給が促進され老廃物の除去が加速されます。また、針刺激は炎症性サイトカインの放出を抑制し、抗炎症性サイトカインの放出を促進する事が報告されています。これにより炎症反応が抑制され痛みの原因となる組織の修復が促進されます。
5.中枢神経系の可塑性の変化
慢性的な痛みは脳の構造や機能に変化をもたらし、痛みの感受性を高める事があります。針治療は機能的MRI等の脳画像研究により痛みの処理に関わる脳領域(前帯状皮質、島皮質、扁桃体等)の活動を調節する事が示されています。これにより脳の痛みのネットワークが再構築され痛みの知覚が正常化されると考えられています。
6.筋膜の緊張緩和とトリガーポイントの不活化
筋筋膜性疼痛症候群では筋肉内に「トリガーポイント」と呼ばれる過敏な結節が存在し、関連痛を引き起こします。針治療はこのトリガーポイントに直接刺入する事で筋肉の過剰な緊張を緩和し、神経の興奮を鎮静化させます。このドライニードリングと呼ばれる手法はトリガーポイントを不活化させ痛みの連鎖を断ち切る効果があります。
これらのメカニズムは単独で作用するのではなく相互に複雑に作用し、総合的に疼痛を抑制します。個人の体質や痛みの種類によりどのメカニズムがより強く働くかは異なりますが、針治療が多岐にわたる生体システムに影響を与える事で様々な種類の疼痛に効果を発揮すると考えられています。
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